しん漢方心療クリニック

院長ブログ

輪読会資料① 耳鳴・耳聾

2025.01.11

耳は清陽が上昇する時に通過する清竅であるため,小さな変化にも影響を受け,自覚症状が現れる。耳鳴と耳聾の病因は耳の病変にあるだけでなく,五臓と密接な関係があるので,耳と五臓の関係をよく知ることが必要である。

耳と五臓の関係

 腎気は耳に通じているので,耳は腎の外竅と呼ばれている。腎気が調和していれは,五音(古代音楽の中の五つの音階)を聞くことができる。「髄海不足,則脳転耳鳴」(髄海不足すれは,則ち脳転がり耳鳴す)『霊枢』 「察耳之枯潤,知腎之強弱」(耳の枯潤を察て,腎の強弱を知る)『医学心悟』腎気不足による聴覚の異常は,加齢による慢性的な耳鳴と難聴に相当することが多い。

 腎は耳を主るが,心は耳竅の外客と呼はれている。心血が不足すると,心火は旺盛となり,腎陰を消耗する。このため腎は陰虚となり心火はますます旺盛となって陰陽が交わることができなくなり(心腎不交) ,耳の症状が現れる。臨床から見ると,心血不足による耳鳴と耳聾が更年期に現れやすい。

 肝と表裏関係をもっ胆経は,耳をまとう形で分布し,肝気もまた耳に通じている。邪気が少陽胆経に侵入し,胆の病変が起こると耳の症状をひき起こす。例えはストレスなどが原因して肝気が上逆すると,頭痛・耳鳴・耳聾などが現れる。「木鬱之発・ ・・甚則耳鳴,眩転」(肝鬱を発し はなはだしい時は耳鳴し,眩暈する)『素問」

 ①脾が虚して気血の生成が不足すると,清陽の上昇は少なくなり頭部の栄養は失調し耳の症状が起こる。②脾気虚のため脾の運化機能が失調して,濁陰は下降せず上逆して耳を蒙塞すると,耳の症状が現れる。脾胃虚弱による耳鳴と耳聾は,痰湿の症状が見られる人に起こる。

 外邪が体表および肺に侵入すると,悪寒・発熱などの表証が見られると同時に,耳痛・耳塞(耳の閉塞感)などの耳の違和感が起こる。これは外界の邪気が耳に侵入したため起こる症状である。かぜをひいた時に現れる耳症状に相当するが,できるだけ慢性化しないように,散風解表など初期の治療を行うことが大切

病因病機

風熱侵入 風邪,特に熱邪を伴う風熱の邪気が人体に侵入し,「清空の竅」である耳を塞ぐと耳鳴あるいは耳聾が発生する。清空の「清」は反応を感じること,「空」は音を分析できることを意味する。「金(肺)は火の灼熱を受ければ耳聾となる」といわれており,「耳聾は肺から治療する」。

肝火上擾 肝は将軍の官と呼ばれ剛臓である。肝が憂鬱や怒りなどの感情的刺激によって傷つけられると,肝気は鬱結して肝火となって上逆し,耳を犯すと耳鳴・耳聾が発生する。「左脈弦急而数,属肝火,其人必多怒,耳鳴或聾」(左脈が弦急で数のものは肝火に属する。その人は必ず怒りっぽく,耳鳴あるいは耳聾する)『医学六要』肝火が上擾した場合,初期は耳鳴がし,徐々に聞こえなくなっていくことが多い。

痰火上昇 酒や美食などの暴飲暴食によって生じた痰湿が,徐々に熱をもち痰火が発生する。痰火が上昇して耳の機能を乱して耳の症状が現れる。「痰火上昇,鬱於耳中為耳鳴,鬱甚則壅閉」(痰火が上昇して,耳中に鬱滞すると, 耳鳴する。鬱がはなはだしい時は耳閉となる)『明医雑著』

腎精不足 腎は精を蔵し,精は骨髄に変化する。髄は脳を満たし,耳の機能を維持する。「腎は耳に開竅する」虚弱体質あるいは病後の精血不足・性生活の不節制などによって腎精・腎陰が消耗されると,髄海である脳または腎竅である耳の栄養が不足し耳鳴・耳聾が発生する。「精脱耳聾,液脱耳鳴」(精が脱すると耳聾となり,液が脱すると耳鳴となる)「黄帝内経霊枢』腎虚によって生じる耳症状は,聴力が徐々に減退していく耳聾が多い。更年期には,腎陰が不足して心火を抑えることができない「心腎不交」による耳鳴・耳聾が現れることがある。

脾胃虚弱 脾は気血を生み出すと同時に,清気を上昇させる機能がある。脾気の運化機能が正常であれば,体内の気血が全身に充足しているが,減退すると気血の生成不足だけではなく,清気が上昇できない状態となり,耳鳴 耳聾が生じ る。

漢方

分類、症状、治療原則、方剤

風熱侵入 耳鳴、耳聾、発病が迅速、悪寒、発熱、頭痛、咽痛、舌苔薄黄、脈浮数

     疏風、清熱、散邪、通竅

     銀翹散、荊芥連翹湯、防風通聖散

肝火上擾 耳鳴の音が高く強い、怒ると症状が加重、偏頭痛、眩暈、目赤、口苦、心煩、不安、便秘、尿黄、舌色

     紅、舌苔黄、脈弦数

     清熱、瀉肝、通竅

     竜胆瀉肝湯、四逆散+香蘇散、加味逍遙散

痰火上昇 耳鳴、耳聾、眩暈、頭重、胸悶、脇痛、食欲不振、口苦、口粘、二便不利、舌色紅、舌苔黄膩、脈滑数

     清火、化痰、和胃、降濁

     温胆湯、半夏白朮天麻湯    

腎精不足 夜間の耳鳴・耳聾が強く、長期化する、精力の減退が著しい、眩暈、腰痛、不眠、ほてり、遺精、舌色 

     紅、舌苔少、脈沈細弱

     補腎、益精、滋陰、潜陽

     六味地黄丸、耳聡左慈丸、

脾胃虚弱 疲労すると耳鳴・耳聾が強くなる、立ち眩み、倦怠感、食欲不振、腹脹、軟便、顔色が萎黄、舌体胖白、

     舌苔白、脈虚弱

     健脾、益気、昇陽、

     補中益気湯、益気聡明湯

鍼灸

肝火上擾

[主証]耳鳴り,または難聴が急に起こる。耳鳴りは持続性,難聴は軽くなったり重くなったりする。気持ちがふさいだり怒ったりすると症状は増悪する。頭痛,眩暈,顔面紅潮,目の充血,心煩,怒りっぽい,多夢,不眠,尿赤,便秘といった症状を伴う。脇痛を伴うこともある。舌質は紅,舌苔は黄,脈は弦数となる。

[治則] 清肝瀉火,宣通耳絡

[取穴] 行間(または太衝に透天涼を配す) ,翳風,聴会または耳門(瀉)    

   耳部の経穴は抜鍼後に鍼孔を閉じないで少し出血させると,耳内の鬱熱の消散,清宣耳竅を助けることができる。

肝胆火逆

[主証] 耳鳴り,または難聴が急に起こる。耳内に潮の音がする。症状は発作性である。耳内の脹痛,頭痛(片頭痛) ,顔面紅潮,ロ苦,咽頭の乾き,心煩,怒りっぽいといった症状を伴う。怒ると症状は増強する。不眠,大便秘結を伴うこともある。舌質は紅,舌苔は黄,脈は弦数有力となる。

[治則] 肝胆の火を清降させる,清宣耳絡をはかる。

[取穴] 行間,丘墟,耳門(瀉,透天涼を配してもよい)

[応用]

◇大便秘結がある場合は,天枢(瀉)を加えるとよい。

◇竜胆瀉肝湯証であるものには,太衝,丘墟,陰陵泉(瀉)を用いるとよい。

◇温邪上攻によるもの,あるいは温熱病証で熱薬を誤用し竅絡を損傷して起こったものには丘墟,外関,患部の耳門または聴宮(瀉)を用いるとよい。丘墟には透天涼を配してもよい。鍼感が胆経に沿って耳区にいたるようにする。外関の鍼感は上行させるようにする。これらによって少陽経気の清宣をはかるとよい。また耳門や聴宮によって清宣耳絡をはかるのもよい。この2穴には透天涼を配してもよい。

痰火上壅

[主証] 耳内にセミの鳴き声,または「フーフー」という音がする。耳の中がつまったようになり,音がはっきり聞こえなくなることがある。頭昏,頭重,胸悶,痰が多い, ロ苦,二便不暢といった症状を伴う。阨逆が起こることもある。舌苔は黄膩,脈は弦滑となる。このような状態を「古今医統』では「痰火鬱結し,壅塞して聾をなす」と述べている。

[治則] 清降痰火,宣通耳絡

[取穴〕 豊隆,内庭,患部の耳門,翳風(瀉)、耳部の経穴は抜鍼後に鍼孔を閉じないで少し出血させると, 耳内の鬱熱の消散,清宣耳竅を助けることができる。

風熱上攻

[主証] 急に耳鳴り,鼻既頭痛,全身のだるさが起こる。鼻汁は水鼻の場合,黄色い鼻汁の場合がある。舌苔は薄白または薄黄,脈は浮数となる。

[治則] 去風清熱,清宣耳絡[取穴] 合谷または曲池,外関,患部の翳風,耳門または聴会(瀉)     

   耳部の経穴には透天涼を配してもよい。

[応用] 急に耳鳴り,または難聴,鼻閉が起こるようになり.風熱による脈証が見られるもの,外感風熱を患い,風熱の邪が肺衛を犯し,耳竅に上擾しているもの,風熱感冒として施治する前に表邪が自然に去ったのに,耳竅に上攻した風熱の邪だけが残って耳鳴りまたは難聴が起こっているもの,これらはすべて風熱感冒として施治することができる。耳門,翳風,合谷,尺沢(瀉)により疏風清熱,宣肺利竅をはかるとよい。耳鳴り,または難聴だけが残ってしまい,発病経過が短い場合には,耳門, 翳風(瀉)に2 ~ 3回治療するだけで治癒させることができる。流行性感冒を息い, 西洋薬で治療して流行性感冒は治癒したのに,耳鳴りが残ってしまうという患者は少なくない。これは風熱の邪が耳に上攻して起こったものであるが,西洋薬を用いただけで.去風清熱をはかっていないためである。

腎精虧虚

[主証] 耳内に持続性のセミの鳴き声がする。耳鳴りの音はしだいに大きくなる。夜間にひどくなり,虚煩が起こり不眠となる。頭暈,目眩,腰膝のだるさ,遺精といった症状を伴いやすい。舌質は紅,少苔,脈は細弱または細数となる。

[治則] 補腎益精,滋陰潜陽

[取穴]  腎兪,復溜(補) ,湧泉(瀉)    太谿,三陰交(補) ,耳門または聴会(瀉)

[応用]◇腎陽虚に偏した耳鳴り,難聴で,下肢の冷えや陽痿〔インポテンツ〕を伴い,舌質淡,脈虚弱であるものには腎兪,太谿(灸補)により温補腎陽をはかるとよい。あるいは関元,腎兪,太谿(補)により温補腎陽,填補精血をはかってもよい。これは右帰飲に類似した効がある。◇高齢で腎気不足,精血虧損により起こるものには,気海,太谿,三陰交(補)により補益腎気,補益精血をはかるとよい。◇肝腎陰虚によるものには復溜,曲泉(補)よ: り滋補肝腎をはかるか,復溜,太谿(補) ,太衝(瀉) =より滋補肝腎をはカ り,佐と、潜陽をはるとよ0、。◇心腎不交の証で耳鳴り,難聴を伴うものには,復溜(補) ,神門(瀉)により滋腎清火,交通心腎をはかるとよい。これは黄連阿膠湯に類似した効がある。さらに聴会または耳門(瀉)を配穴し,佐として清宣耳竅をはかるとよい。◇「傷寒論』太陽篇75条には,「いまだ脈を持たざる時,病人手を叉(はさ)み自ら心を冒(おお)い,師よりて教試し咳をせしめて,咳せざるものは,これ必ず両耳聾し聞くところ無きなり,然るゆえんは,重ねて汗を発するをもって,虚するが故にかくのご とし。」とある。望診の「病人手を叉み自ら心を冒い」ということから心陽虚証であることがわかる。また問診の「教試し咳をせしめて,咳せざるもの」ということから,耳聾のために聞こえないことがわかる。これは重ねて汗を発し虚となったために起こったものである。心兪(灸補)により温補心陽をはかり,復溜(補) により滋補腎陰をはかり,耳門または聴会(瀉)を配穴し佐として宣通耳竅をはかるとよい。

脾虚気陥

[主証] 耳鳴り,難聴,疲れると症状は増悪する。あるいは起立時にひどくなる。耳内に突然空虚感を覚えたり,耳内が涼しくなったように感じられる。倦怠,無力感,食欲不振,食後の腹脹を伴い,大便は時に泥状となる。顔色萎黄,唇や舌質は淡紅,舌苔は薄白,脈は虚弱となる。

[治則] 益気健脾

[取穴] 合谷,陰陵泉(補)    あるいは聴会または耳門(補)を配穴し佐として補虚聡耳をはかる。

[応用] ◇脾胃虚弱,気血化源不足となり,耳の栄養が悪くなって起こるものには,合谷, 三陰交(補)により補益気血をはかり,耳門または聴宮(補)を配穴して補虚聡耳を助けるとよい。あるいは耳部の経穴(瀉)を配穴して佐として宣通耳絡をはかってもよい。◇湿濁内停,清気不昇によるものには,足三里,陰陵泉(瀉)により行湿和中をはかり,耳部の経穴(瀉)を配穴し佐として宣通耳絡をはかるとよい。

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